コロナ禍を経て、「地方で暮らす」という選択に可能性が高まり、注目が集まっています。人生設計を考える上で、地方暮らしは経済的に生活しやすいのでしょうか。そこで今回は、地方暮らしで失敗しないライフプランについて、ファイナンシャルプランナーの谷崎由美さんにお話を伺いました。
ライフワークサポート 代表/株式会社ライフワークサポート 代表取締役
谷崎由美 (たにざき ゆみ)さん
日本FP協会認定AFP。2級ファイナンシャルプランニング技能士。暮らしや働くことについてお金を入り口に考えることを『生活経営』、具体的な実行を『マネートレーニング』として、家計相談を行なっている。
地方と都会で生活費はどのくらい違う?
──地方と都会で、生活費はどのくらい違うのか、地域別の傾向を教えてください。
「都会のほうが収入は多い」というイメージを持つ人は少なくありません。たしかに、東京都など都市部の平均月収は地方より高めです。でも実は、「収入だけ」で比べるのは少し早計です。大事なのは“収支”のバランス。収入が多くても、支出がそれ以上に多ければ、手元に残るお金は少なくなります。
一つの家計を会社にたとえると、都会暮らしのほうが売り上げは大きいけど、経費を差し引くと、都会も地方も利益は一緒ということですね。
●地域別 20~30代の平均月収(税込)・月間支出の比較
※表中の金額は平均的な目安(概算)です。実際の費用は内容や条件により異なります。
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平均月収 |
手取り月収 |
平均月間支出合計 |
可処分所得 |
東京23区 |
35.0万円 |
28.0万円 |
23.0万円 |
5.0万円 |
大阪市 |
32.0万円 |
25.6万円 |
19.5万円 |
6.1万円 |
名古屋市 |
30.5万円 |
24.4万円 |
18.0万円 |
6.4万円 |
福岡市 |
29.5万円 |
23.6万円 |
17.0万円 |
6.6万円 |
仙台市 |
28.5万円 |
22.8万円 |
16.5万円 |
6.3万円 |
金沢市 |
28.0万円 |
22.4万円 |
16.0万円 |
6.4万円 |
鳥取県 |
26.5万円 |
21.2万円 |
14.5万円 |
6.7万円 |
長崎県 |
27.0万円 |
21.6万円 |
15.0万円 |
6.6万円 |
香川県 |
27.5万円 |
22.0万円 |
15.5万円 |
6.5万円 |
出所:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」(年齢階級別(25~29歳、30~34歳)、男女計、 企業規模計の都道府県平均賃金を参考に、手取り額を「額面×約0.8」として概算
──生活費の違いから見た「地方暮らし」のメリットとは?
上の表を見ると、都会と地方で大きく違うのは、やはり家賃の違い。都会では駅近や利便性を求めると家賃が高騰しがちですが、地方では同じ金額で広い部屋や新築物件に住むことができます。
(参考:たとえば地方では、東京都内よりも2~3割安い金額で同じ広さの部屋を借りられます)
生活費の中でも割合が大きい固定費の住居費をぐっと抑えることができるのは、地方暮らしの大きなメリット。住居費を抑えられれば、貯蓄や趣味、自己投資などに回すお金も増やせます。たとえば生活費を抑えて推し活に費やせれば、全国に遠征するお金だってつくれますよね。
また、外食中心の都会に対して、地方は自炊や地元の新鮮な食材で食費を抑えやすい傾向があります。
交通費やレジャー費についても、都会は電車代やバス代が高かったり、イベントや飲み会などで出費がかさんだりしがちです。一方で地方は、自家用車の維持費はかかるものの、通勤距離が短い場合も多く、時間を有効に使えるという面もあります。
つい、生活の基準を下げられないから、たくさん年収が欲しい、と考えがちですが、自分の暮らしを充実させるために、何が大切なのかを考えたら、意外と必要なのは年収じゃない可能性もあります。QOL(生活の質)という観点では、地方のほうがむしろ豊かな暮らしを実現しやすいと思います。
●月間支出の内訳比較(単身世帯概算)
※表中の金額は平均的な目安(概算)です。実際の費用は内容や条件により異なります。
出所:総務月間支出 省統計局「家計調査」
(2023年、単身世帯・二人以上世帯の都市階級別、地域別データを参考に、20~30代の生活実態に近づけるため一部調整・概算)住居費 大手不動産サイトより駅からの距離、築年数、広さなどを考慮した平均値
実は経験値を高めるチャンス!? 地方でキャリアを築くコツ
──地方就職が、キャリア形成においてプラスになるケースとは?
地方の企業は、業務が分業化されすぎていないので、若いうちからいろいろな仕事を任されることが多いです。会社を山にたとえると、富士山のような大きな会社は、頂上にいる重役はふもとの家々まで目が届かないですが、小さな山は頂上からでもふもとにいる人の生活がよく見渡せますよね。同じように、地方の中小企業では小規模な分、一人の社員が企画から実行まで一貫して関われる機会も多いので、同じタイミングで入社した都会の大きな企業に勤めた人よりも、早く成長できるチャンスがあると思います。
また、地方は徐々に福利厚生が手厚い社員の働きやすさを重視する企業も増えてきているものの、依然人手不足な状況なので、若手にどんどんチャンスが回ってくる環境です。 “なんでも屋”のようなポジションを経験することで、ゼネラリストとしての力がつきますよ。
──地方でのキャリア形成に、建材業界が向いていると思いますか?またその理由はなぜでしょうか。
建材業界は、地域の暮らしを支える仕事です。地方では、マイホームを持つ方が多いので、建材業界に向いていると思います。それだけに、設計から施工、リフォームまで、住まいづくり全体に関われる企業も多く、大きなやりがいを感じられると思いますね。
また、建材業はお客さまと直接やり取りをして、自分の仕事が“誰かの生活”をつくっている実感が得られるのも魅力ですよね。地方は人との距離が近いこともあり、日常の中で自然に対人スキルが磨かれることもあるかもしれません。
さらに、住まいに対する価値観が高まることで、リノベーションや空き家活用など、地域活性化にも貢献できると思いますよ。
「地方暮らし」で失敗しない!ライフプラン設計のポイントは“自分の地図アプリをつくる”
──「地方暮らし」で失敗しないライフプランとは? ライフプラン設計のポイントを教えてください。
都会でも地方でも、ライフプランを考えることは、“自分の人生の地図アプリをつくること”だと私はよくお話しています。行きたい場所、つまりゴールを決めるからこそ、現在地からのルートが見えてくるんです。
もちろん、途中で道を変えてもいいし、寄り道してもいい。地方暮らしで結婚して都会に戻るのをやめた、都会暮らしの中で地方に異動になったなど、人生にはいろいろなことがあります。そんな場合でも、目的地さえあれば、どう動くべきかがわかりますよね。
ゴール設定は、定年する65歳までで設定する方もいますし、時代の変化やライフイベントの可能性を踏まえて、まずは直近の30歳くらいを設定する方もいます。どこに設定するにしても、ゴールの基準は“笑って人生を終えるにはどうすればいいか?”という視点が大切です。年収や貯金だけにとらわれず、“自分らしい生活”を送るために必要なものは何か、考えるといいですね。
そのために、5年後、10年後、自分がどうなっていたいかを想像してみてください。すると、“今やるべきこと”が見えてきますよ。
もし、ゴールに設定した貯蓄額がこのままでは足りない、もっと趣味のための費用を増やしたいなどいう場合は、副業を始めるということもありですよね。
たとえば、副業で月4万円稼げたら、年間で50万円近くになりますよ。それがあれば、年収が多少下がっても、自分の暮らしは十分に豊かにできます。
ライフプラン設計は、“生活を経営する”こと。支出を抑えるだけでなく、収入の手段を増やす発想も大切です。副業、投資、スキルアップなど、さまざまな手段を組み合わせて、自分なりの“生活経営”をしていきましょう。
──地方就職・地方暮らしを検討している若手社会人・学生に対して、どのようなアドバイスがありますか?
“都会じゃなきゃキャリアは築けない”という思い込みを、まず手放してみてください。地方には、豊かな自然、ゆとりのある生活、地域に貢献できる仕事があります。SNSなどで情報発信もできる今、場所に縛られずに働くチャンスは広がっています。時々遊びに来るからこそ、都会を楽しめるという考え方もあります。
大切なのは、自分がどんな暮らしをしたいか。そのゴールに合った場所や働き方を選ぶことです。前述したように、ルートはいつでも変えられますし、行ってみたら良さが発見できる可能性もあります。今の時代、固定観念はだんだん減ってきて、働き方の選択肢も無限。そこに根を張ると決めなくていいので、迷ったらまず一度地方暮らしに飛び込んでみてもいいのではないでしょうか。
ぜひ、お金持ちより“幸せ持ち”を目指してほしいです。そのために、どんなライフプランを描くか、どんな暮らしがしたいかを、じっくり考えてみてくださいね。
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