生まれ育った故郷とは異なる地域に移住して働くことを指す「Iターン」。地元ではない、未知の土地で働くことを選んだ人たちは、どのような思いや期待を持って決断したのでしょうか。
今回は、新卒採用でIターンを選んだ先輩方に、その理由やリアルな感想を伺いました。
<お話を伺ったのはこの方!>
株式会社スペースパーツ山形 生産部CAD課
菅野 愛果(かんの・あいか)さん
岩手県出身。専門学校でインテリアを学び、卒業後2024年に株式会社スペースパーツ山形に入社。生産部CAD課に配属され、CADオペレーターとして働いている。
アロック・サンワ株式会社 第二営業部工事課
境 駿太(さかい・しゅんた)さん
愛知県出身。大学の経済学部を卒業し、2024年に福井県のハンドボールチーム「福井永平寺ブルーサンダー」に所属し選手として活動しながら、アロック・サンワ株式会社に入社。会社では第二営業部工事課に配属され、病院や警察署などの非住宅物件の内装工事のための建材や職人の手配を担当している。
なぜこの会社を選んだ?「ここで働きたい!」と心に決めた理由
──今の会社で働きたいと思った理由を教えてください。
菅野さん: 専門学校ではインテリア科に入ったのですが、建物の業界についてもっと知りたかったので、まずは土台を固めていこうと知識を得たくて、木材加工会社の求人を探していました。今いる「スペースパーツ山形」はプレカットの技術レベルが高く、さらにCADオペレーターの求人があるとわかり、学校で学んだCADの技術が活かせる!と感じて応募しました。
地元の岩手県ではなく山形県の会社を選んだのは、地元にはプレカットができる木材加工会社がなかなか見つけられず、働く土地にこだわりなく探したからです。ただ、関東のほうでも内定をいただいていた会社があったのですが、やはり地元から離れすぎない東北地方内がいいなと考え、今の会社を選びました。車ですぐに帰れるほどよい距離がちょうどいいですね。
境さん: 僕の場合は、ハンドボールのトップチームに所属するため、地元の愛知県から離れた福井県の会社に入社しました。本業がハンドボールなので、僕はIターンでも少し特殊かもしれません(笑)。
実は、地元で就活もしていて数社から内定もいただいていたのですが、どうしてもハンドボールのチームに入ることをあきらめられなくて、大学4年生の10月末にすべての内定を辞退しました。その年の12月にチームの入団が決まり、チームから紹介されたうちの1つの会社が、今働いているアロック・サンワ株式会社です。
就活中、さまざまな会社から内定をいただきましたが、最終的には建築に関わる仕事に進もうと考えていました。チームから紹介いただいた中で一番社内の雰囲気が良く、目指していた業種に近かったのが今の会社でした。さらに、土日休みで給与も納得できたというのも、決め手の一つと言えますね。
働いてみて、Iターンのハードルの高さって実際どうなの?
──今まで縁がなかった場所で、さらに建材業界で働くことに対して、何か抵抗感はありましたか?
菅野さん: 専門学校は宮城県で、すでに学生時代から一人暮らしをしていたので、山形で働き、暮らすことにはそこまで抵抗はなかったです。
業界のイメージとして、現場監督などミスをしてはいけない責任のある仕事が多い業界なので、みんな厳しいのではと思っていましたが、実際はとてもフランクで優しく教えていただいて、何度か間違っても丁寧に応えてくださるので、良いギャップもありました。
また、働いてみて、山形のように雪の多い土地は通常とは違う加工の仕方があるということも知りました。学校では、木材や名前、場所などは教わりますが、地域の違いや特色は習わないので、Iターン就職をしたことで、知見が広がるんだなと思いました。
境さん: 僕も厳しい人ばかりの業界かなと思っていたのですが、世間で言われるほどではないと感じました。知識がないと、職人さんとのコミュニケーションに苦労するときはありますが、それは自分が勉強しないといけないことなので。
職場はアットホームで、社員の方々もみんな温かく、優しいなと感じています。ハンドボールの試合を見に来てくださいますし、試合が土曜日にあるときのために、金曜に特別休暇を作ってくださるなど、柔軟に対応していただいています。
みんながワンフロアで働いているからか、コミュニケーションが取りやすく、仕事が終わった後にイベントなどもおこなっています。
慣れない土地での仕事や生活は大変? Iターン生活のリアル
──実際にその地で働いてみて、苦労したことや印象的だったことはありますか?
菅野さん: 働く前までは雪と方言が心配でした。実際に住んでみて、方言は地元に似ていたので大丈夫だったのですが、雪はやはりすごかったですね。元から「雪はすごい」と聞いてはいたので、準備はしていたものの、実際に体感すると、本当にびっくりしました。地元は沿岸なので海風があって積もらないんです。だから、冬は朝起きたらまず雪かきから始まる生活を初めて経験しました。
あと、山形に来てからは通勤などの移動に車を使うようになったので、雪かきと合わせて車の雪対策と降雪時の運転が大変でした。走るのが怖かったですね。
住まいの環境以外では、地域に会社の人の他に知り合いがいないことが少し寂しく感じることがあります。休みの日はどうしても友達がいる地元に帰ってしまい、職場も含め、山形のコミュニティになかなか参加できないのが今の課題です。
境さん: 僕は寮に住んでいるので、ハンドボールチームのメンバーがいつも隣にいる環境だったこともあり、慣れない環境がつらい、ということは最初からなかったです。
ただ仕事で言うと、現場に行くときに道がわからなかったのが大変でした。公共交通機関が発展している愛知県とは違い、福井では車が主な移動手段になったので、知らない土地だけに土地勘がなく、しばらく困りましたね。
あと、僕も雪は驚きました(笑)。福井も思いっきり雪が降るので、朝起きて窓開けて真っ白 (笑)。冬は朝1時間早く起きて雪かきをする生活でした。
でも、慣れない土地で新しい文化に触れても、チームのみんながいますし、車を走らせればいろいろなお店があって、そこまで不便は感じなかったですね。
この土地で叶えたい夢は? Iターン就職から広がる未来像
──これからのキャリアプランや、今の仕事を通して叶えたい夢はありますか?
菅野さん: この1年でいろいろな仕事の知識を学び、社会人としての知識も深く知ることができたので、これからは建築士やインテリアコーディネーターなどの資格も取得したいと考えています。なかなか難しいからまだ手を付けられていないのですが、落ち着いたら勉強を始めたいです。
また、今は自分の仕事を先輩にチェックしてもらっている部分が多いので、早く自立したいですね。
あとは、先ほども話したように、近くに親しい人を作る、という点は課題かなと思っています。仕事では先輩と話すのですが、同僚以外ともいろいろ話していきたいと思っています。
でも、私はのどかで落ち着いている環境が好きなので、1年暮らしてみて、山形は自分に合っていると感じます。これからもこの場所で働き続けたいので、頑張って人間関係も慣れていきたいです。
境さん: 今は上司の現場を手伝いながら段取りを覚えている最中なので、今後は自分の担当を持つことを目標にしています。早く独り立ちできるようになりたいです。
今シーズンはハンドボール選手としてチームの勝利に貢献でき、大きな手応えを得ました。これまで支えてくださったクラブ関係者や社内の仲間へ心から感謝しています。
今後も、プレーヤーとしてのパフォーマンスをさらに高め、チームに欠かせない存在であり続けたいと考えています。成果に見合う評価をいただけるよう努力を重ねることはもちろん、競技で培ったチームワークや瞬時の判断力を、日々の業務やお客様対応にも活かしたいです。
もし将来的に生活環境が変わる局面が訪れても、これまで当社で学んだ建材・住環境の知識は私の強みです。どこにいても「快適で安全な住まいづくり」に貢献するという軸はぶらさず、この業界で社会価値を高め続けたいです。
スポーツと仕事の両立を通じて、自らの成長を会社や地域の発展につなげる――それが私のキャリアビジョンです。
経験者に聞く、Iターン就活のコツと注意点
──Iターン就活の活動内容について、就活のコツや気をつけるべきポイントはありますか?
菅野さん: 知らない土地なので、やはり情報収集には苦労します。地元だと、土地勘があったり、知り合いにも聞いたりできるのですが、伝手もなく難しかったです。アプリや就活サイトに登録して、結構しっかり探しました。私の場合は、東北地方内の木造加工会社で働きたかったので、求人を検索する際に、場所と仕事内容で絞りました。希望の条件で探せるので、便利でしたね。
面接は、やはり距離が離れているとオンラインのケースがありますが、今の会社は対面で面接をし、会社の雰囲気が良くわかって、魅力を感じたので入社を決めました。実際に経験してみて、社内のイメージがわかる、対面の面接がいいかなと思います。オンラインだとなかなか会社の雰囲気はわからないので。でも、距離がある分、対面だと交通費もかかります。だから、お金を払ってでも「ちゃんと話を聞きたいな」と思う会社をしっかり選びました。
境さん: 僕は、すでにチームに所属することが決まっていた状態で面接を受けたので、卒業間際の2月くらいに、1回だけ対面で面接をしました。総務の方と話して、筆記試験を受けた後に社長との1対1の面接があり、内定をいただいた感じです。会社側もハンドボールのチームに入るために福井に来て就職する、ということが前提なので、基本的にハンドボールの話をしていましたね。
Iターンかどうかにかかわらず、自分がやってきたことや強みを話せたことが内定を獲得した勝因かなと思います。とにかく、元気よく笑顔で話す!そうすることで好印象を持っていただけるのではないでしょうか。
──これからIターン就職を考えられている学生さんにアドバイスをお願いします。
菅野さん:私は学校で学んだCADの技術を活かして木材加工会社で働くことを決めていたため、失敗のリスクはあまり考えていませんでした。重く考えず、ライトな気持ちでやりたいことに素直にチャレンジしたのが、私にはよかったのかなと思っています。
いろいろ調べたとしても、やはり行ってみないとわからないことも多いので、まずは応募して、実際に説明を聞いたり会社を見たりするのもおすすめですね。
境さん: 地域性が合わないとストレスになるかもしれないですし、良いところも悪いところも環境は調べておかないと、後々どこかで苦労する可能性もあるんじゃないかと思います。
土地の特性だけでなく、会社の場所もめちゃくちゃ調べました。寮との距離が近くて通いやすいなと感じたのも、会社選びの決め手になりましたね。早く帰れれば、練習まで自由な時間が取れるので。やはり、自分の生活に合った場所がいいですよね。
気になる会社があったら、まずその土地のことをちゃんと調べておくことがとても大切だと思います.
地元から離れて新しい環境で着実にキャリアを築いている菅野さん、境さんのお話を伺って、Iターン就職という選択肢が、自分のやりたい仕事と理想の働き方を実現する一歩になったことが伝わってきました。今回のインタビューを読んで、二人が日々奮闘している建材業界の仕事をもっと知りたい、山形や福井で働いてみたいと思った方は、ぜひ企業サイトもチェックしてみてください!
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